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広島高等裁判所松江支部 昭和59年(ネ)32号 判決

控訴人 倉吉市農業協同組合

右代表者組合長理事 八田隆利

右代表者監事 安田延臣

右訴訟代理人弁護士 及川信夫

右同 石嵜信憲

被控訴人 徳田清博

〈ほか三名〉

右被控訴人四名訴訟代理人弁護士 君野駿平

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  (本案前の答弁)被控訴人らの請求を却下する。

3  (本案の答弁)被控訴人らの請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張および証拠

主張および証拠関係は、原判決事実摘示および当審証拠目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

理由

一  本案前の抗弁について

控訴人の主張は、要するに、本件訴えは、被控訴人らが、昭和五五年二月二九日開催された控訴人組合(農業協同組合法による協同組合)第一六回通常総代会における昭和五四年度決算関係書類の承認を求める件(第四号議案)の審議に際し、被控訴人らの提出した剰余金処分に関する修正案が無視され、かつ原案につき拍手による採決の行われた点を不服とし、決議の方法が組合規約に違反することを理由として、右総代会における決算関係書類承認決議の無効確認を請求するものであるが、農業協同組合の総代会の決議の方法が法令、定款、規約に違反するときは、組合員としては農業協同組合法九六条一項(同法四八条七項により総代会に準用される)所定の行政庁に対する当該決議の取消請求のみが許され、裁判所に対し決議無効確認の訴えを提起することは許されない。決議の方法に瑕疵がある場合において、仮りに株主総会に関する商法の規定を類推適用するとすれば、同法二四七条一項の決議取消の訴えによるべきである。さらに被控訴人らの修正案は不適法で成立の余地なく、被控訴人ら組合員が前記決議によって不利益を受けることはないから、本件は訴えの利益を欠く。よって本件訴えは不適法であるというにある。

しかしながら、農業協同組合法による協同組合の総代会の決議が法律上当然に無効である場合においては、同法九六条一項所定の行政庁に対する取消の手続とは関係なく、各組合員は、直接裁判所に対し、その決議の無効確認を請求し、もしくは決議の無効を前提として権利関係の確認を求めうるものと解すべきである(最高裁判所昭和四六年一二月一七日判決・民集二五巻九号一五八八頁、同昭和四七年三月三〇日判決・判時六六六号五一頁参照)。右は一般原則にいう無効確認の訴であり、株主総会に関する商法の規定の類推適用ではない。また、本件の決議無効確認の訴において、被控訴人ら主張の違法が決議の単なる取消事由にすぎず、かつ修正案が不適法で成立の余地なく決議の結果に影響を及ぼさないとの控訴人の主張は、請求を理由あらしめる事実の不存在をいうものであって、いずれも本案の判断に属する。総代会における決算関係書類承認の決議はこれにより組合員に対する配当可能利益が確定されるから、右決議が当然に無効である場合において、組合員はその決議が無効であることを判決により即時確定するについて法律上の利益を有する。よって控訴人の本案前の抗弁は採用できない。

二  本案について

控訴人組合が農業協同組合法による協同組合であること、昭和五五年二月二九日開催された控訴人組合の第一六回通常総代会において昭和五四年度事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、剰余金処分案を承認する旨の決議がなされたことは当事者間に争いがない。

被控訴人らが右総代会の決議の無効事由として主張するところは、1被控訴人らは、右決議に際し、剰余金処分に関する修正案文を用意し、これを議長に提出して提案の趣旨を説明したのに、議長がこの修正案を採決に付することなく、質疑討論を打ち切って原案の採決をしたのは、修正案の先議採決を規定した組合規約一六条に違反する。2拍手による議決は法令、定款、規約に定めのない方法であり、議長が原案について拍手による採決を行ったのは、採決の方法を規定した組合規約一五条一項に違反するというにある。

しかしながら、被控訴人らの修正案なるものは、その主張によれば、控訴人組合が昭和五四年以前の法人所得の過小申告により課徴された延滞税一二八一万八〇〇〇円、重加算税一六〇〇万四四六九円、合計二八八二万二四六九円の税額相当額を有責の理事に対する控訴人組合の損害賠償債権として貸借対照表、損益計算書の資産、収益に計上し、これを剰余金処分案の当期剰余金に加算したうえ、利用分量配当金を一億五〇一一万七八八九円に増額して各組合員に配分するというものであって、結局当期剰余金・利用分量配当金の増額修正要求の動議であるが、弁論の全趣旨によれば、被控訴人らのいう理事に対する損害賠償債権は、権利として成否不明であり会計上の資産、収益と認識できるものではなく、単に被控訴人らにおいて当期剰余金であると主張しているにすぎないものであることが認められるから、これを貸借対照表に資産として計上しかつ損益計算書に収益として計上しもって架空の剰余金を計上することは、不正経理であって会計原則に照らしとうてい許されない。決算関係書類承認決議に際し提出された修正の動議が会計原則上当然許されない不適法な修正を要求するものである場合において、仮りに議長が審議に際しこの修正案を先議採決せず質疑討論を打ち切って直ちに原案の採決をした所論の違法があったとしても、右はもとより決議の内容の違法ではなく単なる決議方法の瑕疵にとどまり、これによって総代会の決議が当然に無効となるものではないと解すべきである。また採決の方法を定めた控訴人組合規約一五条一項は、「採決は、挙手、起立、投票のいずれかの方法によるものとし、その他の方法によるときは、議長はそのつど議場の意見を聞いて決定する。」と規定しており、拍手による採決が「その他の方法」に該当し必ずしも許されないものではないから、仮りに議長が採決の方法につき議場の意見を聞かず拍手による原案の採決に所論の違法があったとしても、単に決議の方法に関する軽微な瑕疵にすぎず、右違法はとうてい総代会の決議を無効ならしめるものではない。そして、本件において他に総代会の決議に関し無効事由の存することは被控訴人らの主張しないところである。してみれば、右決議の無効確認を求める被控訴人らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

三  よって、被控訴人らの請求を認容した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取り消し、被控訴人らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、同法九六条、九三条一項但書、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古市清 裁判官 松本昭彦 岩田嘉彦)

〈以下省略〉

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